世界中をぷらぷらしてきた 死の淵
早朝、ふと目が覚めた。
周りを見るとまだ皆毛布に包まって眠っているのを横目に俺はそろそろと置きだした。階段を下りてO君の個室をノックするもO君が起きる気配はない。昨晩沐浴しようと盛り上がったが酒の勢いと言うものもある。まずどんなものか見てみるのもいいだろう。時計を見るとまだ朝の7時前だ。俺は宿を出てガードへと1人向かった。
ガンガーからの風が冷たい。気温は間違いなく一桁だろう。眠い目を擦りながら階段を下りていくとガンガーは霧につつまれていた。
その中で服を脱ぎ沐浴をしている人々を見つけた。少し離れた位置に座ってその様子を見る。この寒いのによく川になど入れるなと関心していると沐浴をしている現地のおっさんが手招きをしている。とても入る気になれないので笑顔で首を横に振り、その様子を観察していた。手を合わせ、一歩ずつ川に入っていく。その後両手で水をすくい口に含むと頭まですっぽりと浸かった。俺から見るに腹を壊すとか、具合悪くなるというその前に寒いだろうの一言だ。まだ観光客の姿は一切見えず、勿論観光客の中で沐浴する人の姿は皆無だった。俺は腰を上げ、先日飲んだチャイ屋へ向かい冷えた体をチャイを飲むことで温めた。例えこれがガンガーの水で入れたチャイだとしても沸騰させているし問題ないだろう。今いるムンシーガ� ��トから足を伸ばして1番大きく賑わっているガートであるダシャーシュワメートガートへ行ってみようかとも思ったが気温が低く寒いので俺は途中まで歩き、Uターンして宿へ戻った。
宿へ戻ってもまだ誰も起きてはいなかった。O君に限ってはこの日昼過ぎに起きてきた。そしてそれが全ての災いを招いたのでもあった。宿に戻った俺は食堂に置いてあった日本語の小説を読んで時間を潰した。昼過ぎ、宿の食堂でカレーを食べているとO君が頭を掻きながらやってきた。
O「おはよーす」
躁うつ病の薬
俺「やっと起きたか〜。おはよー。俺早起きしてガート行ってきたよ」
O「え?!沐浴したんですか!?」
俺「無理無理wwまず寒過ぎて川に何か入れないよ」
O「ですよね。この時期のインドは寒いですもんね・・・」
俺「仕方なね。俺達は沐浴をしようと思った、でも寒くてできなかった。決してガンガーに入るのをびびったわけじゃない。これでいいよね?」
O「いいと思います。あーあ、今日は何かするんですか?」
俺「いーや。特別予定はないよ」
O「じゃガート沿いを歩いて火葬場のあるマニカルニカーガートに行ってみません?」
俺「あー、それもいいね。行こうか」
そして俺達は火葬場となるマニカルニカーガートへ� ��向かった。ここバラナシはインド中の遺体が運ばれてくる。火葬場では絶えず煙があがっており、次々と布に包まれた遺体が燃やされていく。遺体は一度聖なる川ガンガーの水に浸され、清められてから荼毘にふされる。火葬が完全に終わるとその灰と遺骨は家族の手によってガンガーへと流されていく。例外としてまだ人生経験の少ない子供や、人生を超越した存在の僧侶のみ荼毘にふされず、手足や体に重りとなる石をまきつけられ川に沈められるそうだ。
外へ出ると朝とはうってかわって気温も上がり、Tシャツ1枚でも汗ばむような陽気だった。乾期で水の少ないガンガーの対岸までスッカリ見渡すことができ、観光客を乗せたボートがガンガーを行きかう。とめどなく押し寄せる物売りの少年、バクシーシを求める人を掻� ��分け、ガートへ降りると昼過ぎなのに沐浴をしている人がいた。
O「これ別に昼でも沐浴とかするもんなんですね」
俺「本当だね。なんか朝ってイメージだったけどさ」
O「昼なら寒くないしいけそうじゃないですか?」
俺「沐浴?」
O「はい。ちょっと入るだけだし、お互い写真取り合いません?」
俺「え〜マジで?」
O「あれ?昨日の勢いはどこにいったんですか?」
俺「いやね、朝沐浴風景を見てたんだけど頭まで浸かって水飲むのよ?」
O「そりゃ体内も清めなければなりませんしね」
俺「あ、そういう意味なのね」
O「なんだと思ってたんですか・・・」
第五中足骨頭骨折
俺「そういや毎朝この川の水で入れてるって言うチャイ飲んでるし、ちょっと飲むくらいなら平気かな?」
O「きっと大丈夫ですって!」
俺「じゃあちょっと下まで降りてみない?」
O「いいですよ」
ガートの下まで降りて水をすくう。思ったより濁っていない。
O「うわwwww何してるんですか!」
俺「え?触るくらい平気っしょ」
O「ええええ」
俺「お前これに入る気なんだろ?大丈夫だよ。ほら、これメッチャ透き通ってんで?むしろ飲めそうじゃない?」
O「無理無理!!」
俺「どれ。ペロペロ」
O「うわぁ・・・・・」
俺「うん。普通の水だねこれ。おし!明日沐浴決行しよう!」
O「なんか立場逆転したなぁ」
この日、俺達はその後マニカルニカーガートで荼毘にふされている人々の風景を延々眺めていた。法外な薪代を請求してくる腐れインド人と喧嘩をしつつ、ただ延々と燃えている人の風景を眺めた。炎の周りには遺体のおこぼれを狙って� ��るのであろう野犬にカラス、火葬の順番待ちをしている遺体が数多く並んでいた。日本では決して見ることの出来ないこの風景を眺めていると不思議とO君との会話もなかった。人って結局死んだらどうなるんだろう。どこに行くんだろう。柄にもなく、そんな事をずっと思った。
帰り道、ポップコーンと水を買って宿へ戻り食堂でカレーを注文した。そしてそのカレーが出来上がるまでの間、俺に悪夢が襲った。最初は少し便意をもよおす程度だった。下腹に違和感というのだろうか。O君に「トイレ行ってくる」と伝えトイレに入ったが何も出ない。しかし下腹が張っている感じがするので少しでも出してやろうと粘る。だが出ない。そのうち少しずつ痛みが出てきだし、10分後には立っていられなくなる位腹が痛くなった。� ��からは脂汗が流れ、口は渇き、足は震えた。尋常じゃない痛みにただ事ではないと思った俺はデリーで購入した下痢の薬を飲もうと部屋へ向かった。残り1粒だった薬を口に含み、水で流し込み横になるともう立ち上がる事はできなかった。
ヒップ著名な脊柱側弯症
今まで経験した腹痛には波があり、痛みと通常のインターバルが必ずあったのに今回はエンドレスで痛い。うめき声をあげながら体をよじるしか出来ず、シーツを掻き毟りながらのた打ち回った。間違いなく昼間に飲んだ水だろう。しかし飲んだと言っても本当に舐める程度、量にして5cc程度だ。しばらくするとO君がカレーを持って部屋に来てくれた。
O「ぷらさんカレ・・・ちょっとどうしたんですか!?」
俺「はわわわ・・・・あああ・・・・」
O「昼間のですか!?」
俺「はぁ・・・・はぁ・・・」
O「薬あります?!大丈夫ですか!?」
俺「あ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・」
何を聞かれても声を出す気力すらな� �。毛布を何枚も被せても寒い。気が付くと熱も出ているようだ。俺はこの宿に来たとき横一列に並んで倒れている大学生の姿を思い出した。まさしく今俺はあの症状になっていた。ふと、気が付くと真夜中になっていた。気を失ったのか眠ったのか分からない。痛みは治まったのか・・・そう考えた瞬間悪夢とも思えるあの痛みがまた襲ってきた。おまけに吐き気もするし便意も半端ではない。俺は這うようにしてトイレへ向かった。もう汚いなどとは言ってられない。泥まみれのトイレを這って進み、陰毛やら汚れが付いている便器を抱き抱えると胃の中が空っぽになるまで俺は吐き続けた。そして休む暇も無く水だけの便が出た。
干物になるかと思った。
その晩、俺は祈った。謝った。
「お願いしま� ��。もう2度とガンガーの水なんか舐めません。沐浴しようなんて思いません。本当にすいません、真面目に生きます。バクシーシをちゃんと与えます。だから・・・だから助けてください」
何に祈ったのか、神になのか、仏になのか、インド人になのか、俺は涙を流しながら祈り、そして吐いた。その吐き気と下痢は一晩中続き、とても眠ることなど出来なかった。朝になりベッドに戻って横になっているとO君が見舞いにきてくれた。昨晩よりはほんの少し良くなり会話できるようになっていた。ドミトリーの他の宿泊客の皆からも手厚い看護を受けた。これは本当に嬉しかった。きっと1人だったら死んでいたと思った。
O君が水を届けてくれ、S君というドミトリーで隣のベッドだった大学生が薬をくれ、日に日に俺の体調は回復していった。そして5日目、なんとか立って歩けるまでに回復をした。しかし立ってあるけるとは言ってもカレーのような刺激のあるものなど食べられるはずもなく、5日間俺は水とフルーツだけで過ごした。一週間もするとドミトリーの顔ぶれはほぼ変わり、O君もついにブッダガヤーへと旅立っていってしまった。もう俺にはこの時ブッダガヤーや他の場所へ移動する気力は残っていなかった。とにかく早くデリーに戻りたかった。しかし列車のチケットも持っていないし、まだ夜行の列車に乗って移動するのも不安だった。
結局俺はこのバラナシにその後4日滞在し、5日目にチケットを購入しデリーへ戻る事 になった。列車の中で俺は怒りに打ち震えていた。聖地バラナシ。バックパッカーとは切っても切り離せないインド。その聖地で俺は沐浴をすることもなく、観光をすることもなく、ただ吐き、下痢をして戻っただけであった。
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